白保の家
石井紀久


建築家の松山将勝氏 (http://www.matsuyama-a.co.jp/) の依頼で沖縄の石垣島・白保で住宅を撮影した。
水中写真家の中村征夫さんの写真集『白保』、そしてこれが原作になった、椎名誠
さんの映画『白保』のロケ地で一躍有名になった。しかしその背景には新空港建設
で大きく揺れた経緯があった。
白保の海は世界有数の青珊瑚礁が生息し、まさに海の楽園である。
ここをまた世界遺産にする動きがあるようだ。

さて現地に到着した私はカメラを三脚にすえて構えていると、時折、少し離れたと
ころで地元の方が運転する車が停車する。何故だろうと思っていると・・・・? 
撮影が終わるのを[待っていた]のだ。
そんなやさしい土地に、家主は東京から移り住んだ『すてきな家族』だった。
きっといろいろな不安や期待をもって永住する決意をしたに違いない。

ところで私はこの撮影の2、3年ぐらい前からエリック・クラプトンのアルバム
PILGRIMから『RIVER OF TEARS』の曲をよく聞いていた。
仕事の忙しい合間に聞くこの曲によく癒された。
少し赤面だが、聞くたびにこんな思いを抱いてた。
『満月の夜、南の素敵な島で海のさざ波を聞きながら(焼酎を飲みながら)この曲
を聞きたい・・・』
こんな淡い幻想、願望をもってモルディブ、フィジー、プーケットなどの満月の海
辺を想像していた。
すると、松山さんから日本のモルディブで満月の日に撮影したいとの依頼。
私の思いが通じた!願っていたことが実現した・・・? 
そんな思いを持って白保の家を撮影していた。
10年位前から、満月を見ると『はっ』とした気持ちなる。心の底からなんと美しく
懐かしいのか、なんてやさしい光なのかそう思うことがよくある。
その満月の『ひ・か・り』で建築物を撮影できたことが何より嬉しいことだった。

建築家の想い・・・
建て主の想い・・・
太陽のエネルギー
月光のやさしさに助けられ
白保の家の想いが
ほんの少しだけ描けたようだ・・・

人生の師匠、写真の師匠に教えて頂いた
インドの大詩人タゴールの詩を引いて・・・
『単に肉眼だけでなく心眼を用いなくては、美を拡大して見ることが出来ない』
『この心眼を開かせるということが特別な教育の仕事となる』(奈良毅訳)
これは教育者でもあったタゴールの洞察であったと師匠に学んだ!
これを読んだ瞬間、心の中で大きく波動し、何かが変化した。

さて月光での外観撮影が終了して部屋へもどると、月あかり中『こども』がまるで
映画の演技指導を受けたのごとく『すばらしい寝姿』・・・
思わずカメラを向けた。
そして焼酎をごちそうになりながら、満月の光のなかで施主の奥さんに三線を弾い
ていただいた。
フィジー、プーケット、エリック・クラプトンでは得られないことを体験し今まで
も鮮明に記憶に残る、最高の一期一会になった。
この被写体を与えていただいた建築家の松山さん、施主とご家族みなさまに大感謝
しつつ・・・
『・・・・・・少しだけ見ることが出来たような気がする・・・』




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石井紀久 Toshihisa Ishii
Blitz Studio 代表
1958 東京生まれ
1978 東京写真専門学校卒
   20歳、大日本印刷CDC事業部撮影課市ヶ谷スタジオにて
      撮影アシスタントとなる    
   23歳、同社フォトグラファーとなる
   28歳、志願して福岡転勤
   31歳、同社を退社、福岡にて独立
   32歳、インテリア・建築写真に従事
   49歳、現在
      建築家、インテリアデザイナー
      より依頼あり